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 中嶋さんに出会ったのは一週間前。ライブハウスのブッキングで一緒になった。前日にyoutubeでアルバムのクロスフェード動画を見て気になっていたのでライブを見る前にアルバム「マジカルストリーム」を本人から手売りで買ってしまった。

 ライブがすごかった。中嶋さんはいい意味で演奏に神経質なようでとてもとても丁寧に歌っていたんだけど、その一方でゆらりゆらりと体を揺らす。不思議なことにそれに違和感はなく、曲の緊張感にうまくハマっていた。
 東京に来て十年目なのに京都の訛りが少しも抜けていない喋り方が格好良かった。どの曲にもメロディのところどころに他にない心地よさの「定治節」(いま勝手に作った言葉です)のようなものがあって、それが顔を出す度に客席全体がゆっくりと中嶋さんの空間になっていくのを感じた。

 その日は夜中に家に帰ったのだけど、すぐに「マジカルストリーム」を聴いた。そのままそのアルバムの全曲を通して、2周続けて聴いた。次の日も自分の仕事を放り出して3周続けて聴いた。
 それから1週間で何周続けて聴いたのかもう覚えてない。とにかく、「定治節」は僕の心をひょいと掴んでしまったのだった。

 爽やかに日々を切り取って、好きなあの娘には真正面から向き合って、そうかと思うと突然難しい顔をして考え事なんかを始めてしまう。そんな不器用で優しい男が中嶋定治さんなんじゃないかなあ。
 
 僕は、高校生の頃に出会った野狐禅の「鈍色の青春」とスキマスイッチの「君の話」に人生最大の衝撃を受けて10年経った今でもこの2枚はよく聴くアルバムになっている。
 それと同じような衝撃が中嶋さんの「マジカルストリーム」にはあったから、10年後も聴き続けているような気がする。
 
2014年9月26日
ヒゲビシャス(音楽家)